THE MAGRITTE Museum vol.2
▲ タイトル写真はTHE MAGRITTE館内のレプリカ
『イメージの裏切り』ルネ・マグリット
▲ イメージの裏切り 1929年 キャンバスに油彩 60×81cm
Los Angeles, County Museum of Art
この絵は、ベルギー王立美術館に展示されているものとほぼ同様の作品が、ロサンゼルス州立美術館に収蔵されています。
絵にはパイプが描かれていますが、パイプの下に「これはパイプではない」というフランス語が記載されています。この作品は通常、「これは紙に描かれたイメージであって、本物のパイプではない。だからパイプではないのだ。」と解説されています。
しかし、ベルギー王立美術館の公認解説者である森耕冶先生は、この絵にはもっと深い意味があると主張されています。
マグリットがまだベルギーにいた頃、彼は親友のシャール・アレクサンドルの家に遊びに行きました。そこで、マグリットは不安げな表情で「僕は本当に存在するのか」「どうして僕が存在すると言えるのか」と問いかけたそうです。
ちょうど前日に、彼らは哲学科の学生たちとデカルトの懐疑論、とりわけ①「われ思う。ゆえに我あり。」について語り合ったということです。
▶ ①「われ思う。ゆえに我あり」
数学者でもあったデカルトは、哲学における「疑いようのない真実」を見つけようとしました。そのために、まず周囲のあらゆるものや、自らの肉体さえも疑って考えましたが、どうしても疑うことのできないのは「今全てを疑っている自意識」の存在であることを見つけました。「全てを疑っている私の自意識は確かに存在している」それが「我思う、ゆえに我あり」なのです。(ゼロからはじめる!哲学史見るだけノートより)
シャールによると、この哲学議論が『これはパイプではない』の発想の源だというのです。
言い換えれば、マグリットがここで本当に言いたかったことは、「僕は本当に存在するのか。紙に描いたイメージではないのか」という②懐疑論だったのです。
▶ ②懐疑論
哲学で、人間の認識力を不確実なものとし、客観的、普遍的真理の認識の可能性を疑っていっさいの判断を差し控える態度。
また、パイプそのものも彼にとって深い意味をもっていました。
悪いことをたくさんした青年時代のマグリットは、アメリカの国民的ヒーローとして有名な、探偵小説シリーズのキャラクター、ニック・カーターが大好きでした。
いつもパイプを片手に横目でにらみながら犯人を追いかける探偵ニック・カーターにマグリットはずいぶん惚れ込んで、パイプをくわえて横目でにらむ自分の顔を写真に撮らせて、それを名刺代わりにしていました。
つまりパイプは青年時代のマグリットの象徴だったのです。
苦い思い出ばかりある青年時代をつとめて語ろうとしなかった彼が、この後、パイプをほとんど作品の意匠として用いなくなったのは決して偶然ではないでしょう。
森耕冶著「マグリット 光と闇に隠された素顔」より
▲ これはリンゴではない 1964年 キャンバスに油彩 141.7×100.8cm
Scheringa Museum of Realist Art
『イメージの裏切り』と同様の着想で描かれた作品。
リンゴの絵の上に、フランス語で『これはリンゴではない』と記載されています。「これはパイプではない」の系譜にあたる作品。
絵の中のリンゴがいかにも本物らしくて食べたくなるほどだったとしても、それは絵具に過ぎない。
そして「リンゴ」という言葉もまた、リンゴの絵と同様、誰かが好き勝手に決めた観念にすぎない。
イメージの裏切り >>>
さて、今回ご紹介させて頂いた、ルネ・マグリットの絵画『イメージの裏切り』。
THE MAGRITTEでは、その名の通り、ある"裏切り"を施しております。
どうぞ、THE MAGRITTE Museum もお楽しみに。
株式会社マグリット
専務取締役 羽原正人
THE MAGRITTE @partylabo.